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ファッションデザイナー 矢尾麻琴さん

2016年 ファッションデザイン専攻 卒業

1995年生まれ。〈桑沢〉卒業後、株式会社ベイクルーズに入社し、レディースブランド『Spick&Span』の企画デザインを担当。素材開発やトレンド分析、シーズンテーマ設定、デザイン画作成、サンプル制作まで幅広い業務に従事。近年ではその経験を活かし、ビンテージスタイルを現代に融合させたオリジナルデニムライン『51/2』の企画デザインにも携わっている。

暮らしに寄り添う衣服

―― 〈桑沢〉ファッションデザイン専攻の特徴を教えてください。

〈桑沢〉はファッションだけではなく、さまざまな専攻の学生が集まり、異なるアプローチでものづくりに取り組んでいる場所です。実際に仕事で出会うファッション専門学校を卒業した方々は、服が好きという情熱からファッションデザイナーを志した方が多い印象がありますが、〈桑沢〉ではデザインという視点からファッションにアプローチする人が多い点が特徴だと思います。

―― 「デザインという観点からファッションにアプローチする」について具体的に教えてください。

デザインとは、人々の生活に寄り添うものだと思います。だからこそ〈桑沢〉ファッションデザイン専攻では、デザイナーの自己表現としての衣服ではなく、着る人の暮らしを想像し、日常の中で着られる服づくりを目指します。私自身も人々の暮らしの一部となるものをつくりたいという思いから〈桑沢〉に入学し、基礎課程でさまざまな専攻の授業を受ける中で、次第にファッションデザインに興味を持つようになりました。

他者に伝える力

―― 現在の仕事内容について教えてください。

まず生地の開発からはじまり、次に世の中のトレンドを汲み取りながら、シーズンテーマを設定します。その後、ブランドの人格を保ったまま、そのテーマをどのように表現し、アイテムやコーディネートに落とし込むかを考えます。実際に商品のイメージが見えてきたら、デザイン画を描き、生地と一緒にプレゼンテーション。企画が通れば、仮の生地を使ってパタンナーに制作を依頼し、着用して修正を加えます。その後、実際の生地でファーストサンプルを仕上げるという流れです。

―― その中でいきている〈桑沢〉での学びはありますか?

手を動かす習慣です。〈桑沢〉では課題が多いため、まずは手を動かして考え、その後それを壊して再考するプロセスを繰り返します。現在、年間で約120着ほどのデザインを担当していますが、頭で考えるだけでなく、実際に手を動かす習慣が非常にいきています。また、『Spick&Span』には、私を含む5人のデザイナーのほか、パタンナーや商品の価格や生産数を決めるマーチャンダイザーなど、さまざま人が関わっています。そのため、ひとつのプロダクトをつくるには、自分のアイデアを他の人々に伝える力が欠かせません。〈桑沢〉のファッションデザイン専攻では、プレゼンテーションの機会が多く、その経験のおかげで、自分の考えを相手にわかりやすく伝えるプレゼンテーション能力が身についたと感じています。

洋服が成長していく

―― 実際に働きはじめてから、学んだことはありますか?

洋服をつくる際には、無数の選択肢が存在します。たとえば、シャツ生地といっても、数えきれないほどの種類があり、細かな違いによって仕上がりが大きく変わります。自分の頭の中にある理想の服を実際の形にするためには、そういった一つひとつの選択に高い精度が求められます。特に、『Spick&Span』のような幅広い世代の女性に向けたリアルクローズでは、シンプルなデザインが多いため、ディテールへのこだわりがよりいっそう重要になります。実際の洋服の制作には多くの時間とコストがかかるため、学生時代に一着を完成させる機会はそう多くはありません。だからこそ、一着一着に対して、「この生地以外は考えられないのか、このパターンが本当に最適なのか」と、細部まで徹底的に向き合う経験を持っておくことが大事だと思います。
また、実際に働きはじめると、自分がデザインした洋服を街中で見かけることもあります。自分がデザインしたものが誰かの日常の一部として存在しているのを見ると、格別の嬉しさがあります。さらに、自分が想像していなかった着こなしに出会うこともあり、その瞬間、自分の意図を超えて服が成長していくように感じます。このような経験は次につくるデザインにも反映され、まさにファッションを通して社会とのつながりを実感する瞬間でもあります。

―― 学校生活を振り返ったときに、やっておいてよかったと感じることはありますか?

海外旅行に行ったことです。金銭面や時間の制約から諦めかけていましたが、学割を活用して思い切って決断しました。現地で異なる文化や暮らしに直接触れ、身体的な実感を伴って経験することで大きな刺激を受けました。また、他分野の友人と一緒に訪れたことで、多角的な視点でデザインを考えるきっかけにもなりました。社会人になった今も出張などで海外に行く機会はありますが、学生時代だからこそ、先入観のない純粋な目線でデザインに向き合うことができ、あの時期ならではの、かけがえのない濃密な体験でした。

▲“Charming Days”というコンセプトのもと、幅広い世代の女性にとって定番となるアイテムを提案する『Spick&Span』。デザインを手がける矢尾さんは、着る人の日常に溶け込み、毎日の気分をより良くするファッションデザインを目指しています。


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