桑沢デザイン研究所の歴史と理念

1954年にデザイン・ジャーナリスト桑澤洋子によって設立された、日本初にして最先端の『デザイン』学校です。ドイツのバウハウスをモデルとして発足して以来、そのカリキュラムは常に時代を反映してきました。小手先の技ではなく、独創や応用力の源となる「デザインの原動力」を培うため、まずは基礎から総合的に学び、つぎに実践を通じて専門的な技術と応用を身につけていく構成となっています。桑澤洋子の言う「概念砕き」とは、すべての先入観を解体し発想力の転換を求めた言葉であり、学生はさまざまな課題を通してそれを学びます。公開シンポジウムや卒業生作品展など、外に開かれた発表・交流の機会も多彩です。3万人を超える卒業生は、世界を牽引する多くのデザイナーとして活躍し、その業績は各領域で高く評価されています。

教育理念

未来へ向かっての人間の精神的・物質的両面からの
要求に応える人材の育成
―ここに本校の理念的目標はあります。

世界は今、新しい価値、生活文化の新しいあり方を求めて激しく変化しております。
未来へ向かっての人間の精神的・物質的両面からの要求に応える人材の育成―ここに本校の理念的目標はあります。
しかし、この目標を達成するには、デザインという専門領域を通じて、新しい明日の生活を具現化することのできる能力を身につける必要があります。
ここに本校の教育指導上の具体的な目標があります。

デザインの領域は不断の広がりを見せています。
自ら選択した分野において、自分の習得した技術を使って独創的なデザインのできる人、現実の制約や条件を創意の糧に転化し、新しい社会の創造に加担できる人物、このような人に是非とも育って欲しいのです。

人間の欲求は限りなく成長し続けます。それは一個の進化のプロセスにもたとえられるでしょう。
この人間の欲求に対して、正しい方向、適切な表現を与えることこそ、まさにデザイナーの仕事といってよいでしょう。
来るべき時代の生活文化は、デザイナーによるこうした「仲介」を経てはじめて結実します。
本校は、時代をリードするデザイナーの育成を目標としております。

3つのポリシー

専門学校桑沢デザイン研究所は教育上の目的を達成するために、ディプロマ・ポリシー（卒業認定の方針）、カリキュラム・ポリシー（教育課程編成・実施の方針）、アドミッション・ポリシー（入学者受入れの方針）を下記のとおり定めています。

• ▼ディプロマ・ポリシー（卒業認定の方針）
  専門学校桑沢デザイン研究所は、未来へ向かっての人間の精神的・物質的両面からの要求にデザインで応える人材の育成という教育理念に基づき、以下に示す知識、技術、能力などを身につけ、学則に定める卒業に必要な条件を満たした者に対して、卒業を認定し、総合デザイン科においては「専門士」の称号を付与します。

  ・ 人間や文化、社会について広い視野を持ち、自ら課題を見つけ出すことができる。
  ・ 感性、思考力、造形力など基礎的な能力を身につけ、デザインに応用することができる。
  ・ 専門的な知識、技術などを身につけ、デザインによって課題の解決に取り組むことができる。

• ▼カリキュラム・ポリシー（教育課程編成・実施の方針）
  専門学校桑沢デザイン研究所は、教育理念、ディプロマ・ポリシーに基づき、以下に示す知識、技術、能力などを身につけるためのカリキュラムを編成しています。 総合デザイン科（昼間部）では1年次（共通課程）に全てのデザインに共通する基礎を学び、2〜3年次（専門課程）にデザインの専門分野を学びます。専攻デザイン科（夜間部）では、基礎と専門分野を並行しながら学びます。

  ・ 人間や文化、社会とデザインとの関わりについて広く学び、デザインの役割を理解する。
  ・ デザインに必要な感性、思考力、造形力など基礎的な能力を身につける。
  ・ デザインに関する専門的な知識、技術などを学び、制作、研究をおこなう能力を身につける。

• ▼アドミッション・ポリシー（入学者受入れの方針）
  ・ 観察力 広い視野を持ち、さまざまなものごとから学ぼうとする姿勢を持つ人
  ・ 感性 豊かな感受性と柔軟な発想力を持つ人
  ・ コミュニケーション能力 さまざまな立場の人と意見を交わし合い、協力することができる人
  ・ 実践力 デザイン活動を通して、新しい社会の創造を目指す意欲と行動力のある人

所長あいさつ

しなやかにデザインするための
4つの能力

状況の変化が速く、見通しがききづらい時代に私たちは生きています。たとえば、生成AIの登場によりデザインのあり方が大きく変化すると言われる状況で、デザイン教育に求められるものは何でしょうか。私は、こうした時代だからこそ、デザイン教育の原理原則に立ち返り、変化に対して柔軟に適応する能力を高めておくべきだと考えます。　〈桑沢〉でデザイン教育に取り組むうちに、私は、優れたデザイナーがいくつかの能力を使い分けていることに気がつきました。
　これらの能力は、物事に対する人間の態度を対比させることで見えてきます。まずは「受け入れる」か「創り出す」かという態度の違いがあります。受け入れるとき、人はすでにあるものから何かを手に入れようとします。創り出すとき、人はまだないものへと手を伸ばそうとします。さらに、「広げる」か「まとめる」かという態度の違いもあります。広げるとは、無理にまとめようとせずに状況に委ねる態度です。まとめるとは、規則や計画にしたがって状況を整えようとする態度です。
　こうした4つの態度を重ね合わせると、そこに4つの能力が浮かび上がってきます。受け入れつつ広げる能力は「観察力」、受け入れつつまとめる能力は「理解力」、創り出しつつ広げる能力は「発想力」、創り出しつつまとめる能力は「構成力」という具合です。（図表を参照）
これらをデザイン・プロセスに重ねてみると具体的なイメージが湧くでしょう。たとえば、街に出て観察力を働かせれば、音、匂い、人々の表情、行動パターン、空間の使い方などから、これまで気づかなかったさまざまな情報が得られます。こうして集まった情報をもとにデザインで解決すべき課題を見つけ出すのが理解力です。課題解決のための仮説を試行錯誤を通して作り出すのが発想力。そして最後に構成力が、まとまりのある形と説得力を仮説に与えます。
　当たり前の流れに見えますが、実は簡単なことではありません。それぞれの能力は2組の対立する態度からなるため、一度に複数の能力を使おうとすると、心の中に葛藤が生じて進行が止まってしまうからです。たとえば、すでに理解できたことにこだわると自由な発想が出づらくなってしまいます。そんなとき優れたデザイナーは、態度や心のありようをしなやかに切り替えることで、葛藤を乗り越えながらデザインのプロセスを前へ進めているのです。
　〈桑沢〉で行われている課題は、「4つの能力」のどれかを重点的に訓練したり、複数の能力の連携を促したりするように工夫されています。こうした課題を繰り返し経験することで、「葛藤を乗り越えるしなやかさ」を身につけていきましょう。